ACG eyes 3 : 國府理ーROBO Whaleー
2009.5.12 [tue] – 6.20 [sat] 11:00~19:00(土曜日は〜17:00) ※日・月 休廊
乗り物の形態をモチーフに、生命や自然のサイクルを融合させた独自のマシーンシリーズ“KOKUFUMOBIL”で知られ、過去・現在・未来のさまざまなエネルギーに対する想像と考察を重ねていく美術作家・國府 理。
たとえば車について、社会を支える象徴的なものの一つとして捉える國府は、乗用スペースを熱帯植物で埋め尽くしたり、自動車そのものを冷蔵庫やシンボリックなタワーの姿に変身させたり、自分で排出した二酸化炭素を貯蔵・計測するシステムやエンジンとは異なる動力としてセイルやプロペラを取付け、車だけではなくヒトの意識を動かす数々の作品を生み出し、人々の共感と注目を集めています。
精巧な彫刻(的)オブジェの魅力にとどまらず、それら作品に在るのは伝説や神話を思わせる不思議な世界観です。砂漠の荒野の中にふわりと浮かび上がる蜃気楼のように、束の間の呼吸のために海面へと姿を現すクジラのように、現実世界で優美に動き出し、現れては消え、また現れる…。その繰り返しで、國府は展覧会という場を出現の契機としながら “KOKUFUMOBIL”を展開していきます。
2005年、アートコートギャラリーでの個展開催以降の國府 理の作家活動を紹介する本展では、廃車となったフォルクスワーゲン車をを改造し、全長7.7mほどのクジラの化石へと変貌させた《ROBO Whale》を中心に、映像やドローイング作品も出展します。
《ROBO Whale》は、IWC(国際捕鯨委員会)の国際捕鯨取締条約に関する報道ニュース (2007年) への違和感を発端として、また、かつての6千年前には海に覆われクジラやイルカの骨が多数出土されているという大阪の歴史や、空を飛ぶイメージなどへと感性の赴くままに着想をひろげていく國府自身の乗り物となって現れた作品です。
人間がつくり出した文明や社会の価値観、また秩序によって、はからずも人間以外の何ものかが背負わされてしまっているさまざまな現象…國府のモノづくりは、そうした現代社会の「不確かさ」の中から自己存在や実存とも言うべき確かな何かを取出し、証明していく行為と似ています。
“KOKUFUMOBIL”を目の当たりにしたとき、目に見えるのは、いわゆる人間の都合や理論が通用しない(むしろ無関係とさえ言える)現代社会への賛美とも悲哀とも受け取れる仮想世界のワンシーンでしょう。しかし同時に善や悪といった概念を超えた、言葉には変え難い 「永遠」を見たように感じるのも確かです。それは、「内なる魂が旅をした」感覚とも言い表せるのではないでしょうか。 國府は自ら、予めその仮想世界に暮らす無名の住人、あるいはモノづくり人であったかのように、しばしのあいだ“KOKUFUMOBIL”を現実世界へと停留させます。そして、私たちが日々思う価値基準や常識というものを静かにひっくり返し、機能を失った車に新たな機能を載せて、無秩序なる美の世界を創造していくのです。
帰る海を失くして地表に発掘されたクジラはいま、大阪湾を見つめながらギャラリー空間で穏やかに眠っているようです。本来あるべき姿など無いのかもしれない未来社会の訪れを待つ《ROBO Whale》、これから彼が空を飛ぶためのエネルギーを私たちは探すことができるでしょうか。