ARTCOURT Gallery

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秋山 陽「未だ生まれない…」

2024. 11.9 [sat] - 12.14 [sat] 11:00-18:00 (土 -17:00) 日月祝 休廊

アートコートギャラリーでは、この度、秋山陽による個展「未だ生まれない...」を開催いたします。 本展は、約20年ぶりに新たな名称を冠した大型作品《Ame-tsuchi》の3点を中心に、白磁と鉄粉を素材とする実験的な新作《Crossing》および平面作品《Crossing on paper》、代表的 シリーズ《Metavoid》の関連作複数点で構成されます。

秋山は40年余りにわたり、亀裂を特徴とする独自の陶表現によって、造形―空間―知覚の間に生じる関係への存在論的アプローチを追求しています。「かたちではなく、状態、現象を取り出す」という、陶芸の本質を鋭く揺さぶる試みから生まれた初期シリーズ《準平原》(1980~)は、円筒や円錐などの土の立体の表面にバーナーを用いてひび割れを生じさせ、それを切り開いて展開したものを黒陶へと仕上げ、平面状のオブジェクトとして空間に配置したものです。土の「表皮」、内部と外部という空間概念を可能にする「境界面」を主題とする本作を契機として、1990年代以降、《地質時代》《Oscillation》《Metavoid》など様々な展開を通して、原初的なうつわ構造を土台とする内/外、物質/空間の相互関係、あるいは生成と崩壊、人為と自然といった相反する要素を包摂する多中心的な存在のあり方が探求されました。

土と陶を素材とする秋山の表現者としての実践は、自身の身体感覚 ― 足で踏みしめ、手で触れる大地の感触を拠り所とする姿勢と、自らの限りある身体では捉えがたい大きな存在、無限にも通じる「何か」を希求する心の絶え間ない往還に支えられたものであり、そこには常に、「イメージとして静止・完結しているものではなく、時間的・空間的広がりを喚起させるもの」すなわち「完璧な未完」を志向する意思が働いていました。

本展の中心となる《Ame-tsuchi》は、秋山が存在と創造について積み重ねた思索をさらに深化させ、自身の造形的探求に新たな可能性を開くものとして取り組んだ作品群です。従来の陶土に磁土を加える、焼成後の本体に研磨をかけるなどの新たな試みにより、独特の肌理と光沢をまとい、秋山作品特有の硬さと脆さの対比を一層際立たせるしなやかな存在感。二つの軸が合わさり、あるいは一つの軸の中にスリットが走る形態は、融合と分化の狭間にある生命体、あるいはそれを取り巻く円環的な時間を想起させます。天からの恵みを受けて地中の種が芽吹き、長い時間をかけて一本の木として成長し、やがては土に還り、さらに別の形へと変化してゆく…。生と死が緩やかに結びつき織りなす生命の循環的な営みを、自身もその一部である作家が皮膚感覚にもとづく土との関わりを通してなぞることは、有限の存在である自らと知覚を超越した存在とが、どこかで繋がっていることを確かめようとする行為でもあるかのようです。また、白磁の支持体に線による様々なコンポジションが浮かび上がる《Crossing》は、2013年に発表された、鉄粉の酸化作用を利用して蜘蛛の巣を定着させたモノタイプ《交信》の延長線上に生み出された作品です。蜘蛛が作り上げる精緻な造形美という微視的な世界との交信のうちにも、作家は自身の感性が不可知なものと交差する瞬間を追い求めているのかもしれません。

素材と自身の間に醸成される「現象」としての土の振る舞いを手がかりとして、森羅万象に息づく無限の広がりを見つめる秋山の現在進行形の表現をぜひご覧ください。

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  • 11.9 [sat] 15:30-17:00
    レセプション

出展作家

秋山 陽