西條茜「Phantom Body」
2022. 11.5 (sat) - 12.17 (sat) 11:00-18:00(土は 11:00-17:00) *休廊:日・月・祝
作家ステイトメントーーーーーーーーーーーーーーーーーー
イタリアの幻想文学で知られるイタロ・カルヴィーノの小説「まっぷたつの子爵」は、戦争で砲撃を受け、身体が左右二つになってしまった男の物語です。
奇跡的に生き残った子爵は右半身だけで帰路へ着きますが、やがて生き別れになっていた左半身も彼の元へ戻ってきます。
私はこの物語に描かれた奇妙な状況にどこか親近感を覚え、今回の展覧会のテーマにもなる“身体の在処” へのアプローチを始めました。
ここに存在しているのにまるで捉えどころのない感覚。
身体とは不確かなものだと、自身そして他者とのコミュニケーションを通してそう感じることは少なくありません。しかしその不確かさに決着をつけず、身体を通して思考し続けることでしか捉えられない世界があると私は感じています。これは私が素手で触れて作りあげる陶芸という素材・技術を選択していることからも言えることかもしれません。
私は近年の制作において、陶磁器の特徴の一つである内部の空洞に息を吹き込むことで身体や内臓感覚の延長・拡張を試みてきました。土で作りあげた造形物に創世記さながら息を吹き込むとき、臓器とその造形物は内部の空洞で繋がり一つの塊のようになります。異なる存在として認識している「人とモノ」「人と人」が緩やかに繋がり“自と他の境界線が曖昧になる瞬間”、そこにはかつてマルセル・デュシャンが提唱したアンフラマンス(超薄)な関係性が生まれるようです。
生き別れた子爵の半身はどのようにして長旅から戻ってきたのでしょうか。今回の個展では会場を一つの地図に見立て、身体が様々な場所を移動していくイメージを作り上げます。触覚性の強い陶芸という素材と、人の声や息を媒介にしたプリミティブなコミュニケーションを通して、自分そして他者の“身体の在処” を辿ります。
( 2022.10 西條茜)
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西條茜は、京都市立芸術大学で陶磁器を専攻し、在学中にはRCA交換留学を経て、2014 年に同大学院を修了。陶を主なメディアとし、拠点とする京都市内のスタジオの他にも、世界各地にある窯元に滞在し制作活動を行っています。
多彩な技法を駆使して表現される表面のリアリティに対して内部は空洞であるという、陶造形の構造プロセスに虚構性を見出し、西條は訪れた地に伝わる文化や史実と私的な体験や記憶を重ね合わせた虚実曖昧な物語を作り出し、独自の作品世界を構築しています。また、有機的なフォルムはしばしば西條自身の身体からトレースされることもあり、装身具や医療器具あるいは体内の器官や臓器を思わせる造形特徴からも、西條は常に身体をめぐるテーマを表現の核としています。
2019 年に制作した《コキイユ》をきっかけに、陶の内部空洞に息を吹き込み、音を発生させる作品展開を始め、近年はユニット「TŌBOE」としてパフォーマンス活動も行うなど、陶と身体との親和性を深めてきました。そしてコロナ禍に見舞われた2020 年以降、西條は陶と身体をさまざまな感覚で一体化させることで、既存の社会システムの境界を超えて人やモノが自由に繋がりを持ち得る可能性を追求し続けています。
本展に向けて西條は、“身体の在処” をテーマにある物語を構想し、約10 点の新作によるインスタレーションで空間を構成します。また会期中には、作品から発せられる生の音を体感できる2 日間限定のパフォーマンスも行います。
洗練されたセンスで土と人とが触れ合う瞬間の美を捉え、さらには国内のアートシーン注目のU35作家として展覧会やメディアの数々にも選出され期待が集まる西條茜のアートコートギャラリー初個展をどうぞお見逃しなく、ご高覧ください。
関連動画
西條茜 Akane Saijo “Phatom Body” ( Performance Archive @ARTCOURT Gallery, 2022)|Movie: SHINSEKI, Inc.
関連イベント
- パフォーマンス「phantom body」
2022.11.12 [sat] 15:00-15:30
2022.12.10 [sat] 15:00-15:30
【パフォーマー 大井卓也 / 遠藤リョウノスケ / 宮木亜菜】
*入場無料・予約不要