闇をまなざし、光にふれる。 児玉靖枝・西條茜・牡丹靖佳・吉岡千尋
2021.5.11 [tue] - 7.24 [sat] 11:00-18:00(土曜日17:00まで)※日・月・祝 休廊
本展で紹介する4人のアーティスト、児玉靖枝、西條茜、牡丹靖佳、吉岡千尋による表現の基底には、存在の表裏をなす光と闇への意識、そして、そこに内包されるある種の「伝わらなさ」が横たわっています。
空に溶け入りそうな花の形や日に透ける葉の重なり、魅惑的な色彩と光沢を放つ器の肌、物語を予感させる色と形の連鎖。その背後に息づく、目に見えないもの、空虚な内側、全体に通じない欠片、記憶の空白…。目に映る〈光〉の世界の美しさを通して、その裏側、あるいは認識の働きに潜む〈闇〉の事象に目を凝らし、その輪郭をあぶり出そうとする彼らの作品は、不思議な透明感をまとい、見る者の感性を世界の深奥へと開いてゆきます。
人々が日常と生命の儚さを改めて知る一方、二極化する価値観や分かりやすさへの偏重を余儀なくされる今の世界で、光と闇の狭間にあって言語や意味に回収されることのない「伝わらなさ」を掬い取り、存在することの本質、光と闇の向こうから放たれる「もう一つの光」に触れようとする四者の試みにご注目ください。
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【作家・作品紹介】
陶芸を主なメディアとする西條茜(b. 1989)は、確かな形を有し、目でその光沢や色味を愛で、手で質感を確かめることができる、どこまでも実体(リアル)でありながら、同時に、空虚な内部空間を包み隠す「表面」としてのやきものにつきまとう虚構性に焦点をあてます。さらに、そこに私的な物語や他者の歴史など、目に見えない要素を重ねることで、器物という空間的存在に時間軸を組み込んだ独自の世界観を提示してきました。本展では、2012年より取り組んできた、粘土による素地=躯体を取り除き、器の「外皮」である釉層のみで成り立つ造形シリーズの深化を試みます。内側に隠す空虚を半ば露わにしながら、実と虚、空間と時間、光と闇を透かし込む両義的な存在としてのやきものは、私たちの知覚や認識を拡張してゆきます。
牡丹靖佳(b. 1971)は、日常の風景や事物を、色や形、筆触といった絵画言語に置き換え、それらの間に結ばれる関係と対話しながらイメージを連鎖させることで、「何か」の予兆と余韻に満ちた絵画世界を織り上げます。近年は、色そのものの自律的な働きに着目し、闇の中で鋭敏になる触覚や視線の動きに呼応して浮かび上がる流動的な色彩の世界を反復や対称というルールのもとに再構成する〈carpet〉シリーズ(《Seesaw》《Tree owl》など)、あるいは、絵具の滲みや垂れなどの現象と描かれるイメージとを等価に扱うことで、モチーフを「絵画」に翻訳する前の淡い状態のまま画面に定着させる〈a piece of story〉シリーズ(《Annunciation》など)を展開し、瞼の裏に映る仄かな光を追うように、描く行為を重ねています。
吉岡千尋(b. 1981)もまた、庭に咲く薔薇やイコンの聖人が纏う衣装など、日常や旅先で目にした光景を主な主題としていますが、彼女は自らが知覚した事物の印象をなるべくそのままの姿と質感で画布の上に再現すべく、グリッドを拠り所に「写し描く」という姿勢に基づいて絵画を制作しています。その過程で浮かび上がる現実と認識のズレや記憶の空白などを、省略や補足といった控えめな筆の身振りに置き換え、あるいは周囲の陰影を写し込みながら曖昧な光を放つシルバーの下地に託すことで、果てしない空間の広がりや蓄積された時間と行為に宿る精神性といった知覚では捉えきれない要素をも画面につなぎとめ、光と闇が交差する絵画空間を生み出します。本展では、2014年より継続する、空に映える紅葉を描いた《muqarnas》シリーズの新作群、そして、礼拝堂の天井に表現された紺碧の星空をモチーフに、ストラッポの技法で制作された作品を展示。描く行為と見る行為の間で密かに変質する絵画の位相について問いを投げかけます。
1980年代の精緻な静物画から90年代の抽象期、そして、90年代終盤以降の抽象と具象の境界を往還する絵画表現に至るまで、児玉靖枝(b. 1961)は一貫して、ものが存在することの本質を探り、またその反照として「いま、ここにいる自分」、そして自らと対象を包む世界への眼差しをとらえようとしてきました。本展では、児玉が抽象的な絵画空間に外界のモチーフを再び取り入れ始めた2000年前後の《ambient light》シリーズ、そして、およそ20年の時を経て再び転換期を迎えた作家の現在進行形のシリーズ《asile - white splash》を取り上げます。前者は、絵具という物質による多層構造において、イメージ=光が闇に溶けてはまた浮き出る、その明滅運動の最中に、不可知な存在の気配がもう一つの光となり、見る者の視線を奥へと誘う、児玉の代表的な絵画世界の萌芽ともいえる作品群です。そして、嵐のために根こそぎ倒れた梅の大木が満開の花を咲かせる光景を描く後者《asile - white splash》は、それまで絵具層の重なりの中に息づいていた光が前景へと溢れ出てくるかのような印象を抱かせます。それは、内に秘めた生の本質を惜しげもなく表出させる植物の有様に対峙し、その剥き出しの存在の姿、すなわち「もう一つの光」に絵画行為を通して触れようとする、作家の揺るぎない態度表明とも捉えることができるでしょう。
関連イベント
- 5.15 [sat] ※終了しました。
◆ モーニングトーク(予約制)
10:00-10:50 西條茜 × 牡丹靖佳
11:00-11:50 児玉靖枝 × 吉岡千尋
*ご参加は5月14日(金) 17:00までにメールにてご予約ください(Email. info@artcourtgallery.com )。
折り返し弊廊より、視聴のためのURL等をお知らせさせていただきます
*同日13時頃より、吉岡千尋作品集 『mimesis』(2018年発行) オリジナルドローイング入り特装版(限定50部)を展示販売いたします。
作品集詳細はこちら ▶︎https://www.artcourtgallery.com/publications/yc_mimesis/
※新型コロナウィルスの感染状況により、会期・イベントなどが変更・中止となる場合があります。